「……オウくんっ」
透子ちゃんが、目の前で立ち上がった。
その人物を瞳の中に入れると、一瞬でホッとしたように緊張を緩めて、安堵の息を漏らして、どこか嬉しそうに声のトーンを上げる。
透子ちゃんの視線の先、振り返ると、桜司が退屈そうに立っていて、左手にはビニールの袋が吊られていた。
へえ、桜司にもそんな表情するようになったんだ。意外。ちょっと前までは桜司に付きまとっていた割に線を引いてたし、どこか他人行儀だったのに。
桜司がこちらに向かって真っ直ぐ歩いてくる。俺達は二人して、その姿に思わず見入ってしまう。
「……おい」
縋るように桜司を見る透子ちゃんに、桜司はゆっくりと言葉を漏らし、ひどく冷たい目で俺を見下ろした。
ライオンでもチーターでもハイエナでもない。この男は工藤桜司の他ならず、絶対的支配権を持つ王のような瞳を持つ。
「なんで泣きそうなわけ?」
俺に聞くんだ。本人に直接聞けばいいのに。面倒くさそうに言うセリフに、少なからず背中がぞわりとする。張り詰めた笑顔も、きっとこの男には通用しない。
「あ、あの、違う、なんでもないの!」
「あ?」
「あの、オウくん、どうしたの?何か用でもあった?」
汚れを知らない箱入り娘は、一丁前に俺を庇うようなことをする。生意気だ。

