「先に話してたのは、仁見さんなのに。半強制的に帰らせるなんて」
「えー?俺は透子ちゃんと先輩と俺の平穏を守っただけだよ?」
人間平和が一番だから。とケラケラ笑いながら付け加えると、透子ちゃんは訝しげに眉を顰める。
「私、遊馬くんが分からない。いつも明るくて、周りの人を巻き込んで楽しませて、悩みなんてない人だと思ってた」
「ふは、ひっどいなあ。地味に失礼なこと言ってんの分かってる?」
「でも、そうじゃないよね」
透子ちゃんの、傷みを知らない絹のようなストレートの髪を眺める。外から零れる太陽の光で髪の毛が光って、思わず目を細める。眩しい。この子は俺とは違うものを持ちすぎて、あまりに眩しい。
「どうして本音を言わないの?その、不倫…相手にも、本当のこと言えば、いいのに。好き、なんでしょう?別れた後寂しさに耐えられないくらい、好きなんでしょう…?それなら尚更ケジメつけてちゃんと気持ちを話して…」
「うるさい」
「、あ…」
「それ以上喋ったらここで口塞ぐよ。周りに人が居ようと居ないと俺にはどっちでもいいからね。嫌だって抵抗しても君なんてすぐ力づくでどうにでもなるから。キスは、したことあるの?ないか。桜司が見てる前で腰が立たなくなるくらいぐちゃぐちゃに泣かせてやろうか?あー、可哀想。透子ちゃん、そんな姿を桜司に見られたらどんな気持ちになるんだろうね?」
恐怖に、瞳の色を変える彼女に「やべ」と心の中で漏らす。
…あー、最悪。こんなこと言うはずじゃなかったのに。調子狂う。この子の前だと、調子が狂ってばかりだ。
昨日だって、あんな姿見せるつもりじゃなかったのに。なんで俺、こんなクソ真面目な箱入り娘に、熱くなってんの。

