にべないオウジ



桜司に透子ちゃんと俺の居場所だけ連絡して、既読がついたことを確認して画面を閉じる。

あいつは滅多に返事を返してこない。既読の文字が、返事の代わりのようなものだ。


「先輩、もう帰った方がいいよ」

「え?」

「ライオンに噛みつかれたくなかったらね」


聞き分けのいい人間は嫌いじゃない。俺の思い通りに動いてくれる人間は割と好きだ。

"ライオン"が誰のことを指しているのか分かっているのか分かっていないのか、どちらにせよ仁見は身の回りのものを片付け始めた。


ライオンっていうより、チーターとかかな?ハイエナ?うーん、なんか違うなあ。

あの独特な雰囲気を動物で表現するのが難しくて、頭の中で何匹も動物を浮かべる。


「え、仁見さん、わざわざ帰らなくても…!」

「ううん、いいんだ。どうせ弓道部のやつらに話があったし、そっち行かなきゃ」


周りの空気を読んで、気を使う透子ちゃんにそれ以上気を使わせないために声をかける。

気にしないでと優しく微笑むと、彼女は安心したように顔の筋肉を緩める。

この男は、桜司にはないものばかり持ってる。透子ちゃんはこういう男と付き合った方が絶対身の丈にも合ってるし、幸せになれるのだろう。


仁見が居なくなったこの空間で、透子ちゃんは俺を睨んだ。