にべないオウジ



「透子!にやにやしてる場合じゃないから!しっかりしろ!」

「え?あ、ごめん。オウくんが可愛くって」

「はあっ?可愛い?あの性悪男のどこが!ほんと透子は子供の時から感性がズレてる」

「ごめんねぇ、桜司、いつにも増して機嫌悪くてさ」


オウくんと一緒に去ったのではなかったのだろうか。先程私に手を振ってきた能天気そうな男の人が、眉を下げて手を合わせている。

この人が謝ることではないのにオウくんの代わりに謝る姿に、首を傾げた。


この人、オウくんとよく一緒にいる人だ。

彼の周りに群がる人は入れ替わりが激しいけど、この人は大学に入学してきた時からオウくんの隣にいた…気がする。


「機嫌悪いって、まぁいつもの事だけど、何かあったわけ?」


キリちゃんが聞くと、彼は「そうなんだよ〜!」といかにも聞いてくれるのを待っていたかのような反応を見せた。

明るい人だなあ。


「なんかさ、弓道部?の人がどーーしても桜司を部活に入れたいみたいでさ?何回も断ってんのにしつこいのなんのって。あいつアーチェリーのサークル入ってるけど、弓道も出来るの?てか二つって何が違うの?」


私は、小学生の頃から弓道衣を身にまとって、背筋をピンと伸ばして、一つの的だけに意識を集中させて、その場の空気全てを自分のものにして、その姿を見ていると息が出来なくなる、その様子を思い出していた。