「……不倫は、良くないよ」
回答まで、模範的だ。
俺は透子ちゃんの言葉には返事をせず、いつものようににっかりと笑う。その表情を見て、彼女はほっとしたように緊張を緩める。
「透子ちゃん、晩ご飯食べるの付き合ってくれない?」
「え、ごめん。ママが家で作ってるから…」
「はあ?ハタチにもなってママが作ってるからぁ?透子ちゃん、どんだけ過保護に育てられてんの」
俺が顔を歪めると、透子ちゃんもムッとした。箱入り娘のお嬢様。桜司も面倒な相手に惚れてるんだなぁと思う。
「なんで、不倫なんかしてるの?」
こういう時は、空気を読んでその事には触れないでくれたらいいのに。
やっぱりこの子は空気が読めないみたいだ。
「寂しいから。お互い」
「やめようよ、そんなこと。誰も幸せにならないよ」
君に、何が分かるっていうわけ?
あの人と先に出会ったのは俺の方だ。中学の時、相手が家庭教師で、先に彼女を知ったのは俺の方だ。
キスの仕方も、セックスも、俺は全部あの人から教わった。

