にべないオウジ



じゃあ次会う日まで、元気でね。

栞さんのその言葉で俺は車から降りて、運転席から手を振る彼女を見つめ、そのまま車が見えなくなるまで、ぼうっと車を眺めていた。


あの人と会ったあとは寂しさに押し潰されそうになるから、いつも俺は代わりの女を探してしまう。

スマホを取り出そうとポケットに手を入れた時だった。

見慣れた顔が、俺を凝視している。


「あ、遊馬くん。ここ、こんにちは」


まさかこの場面をこの子に見られるなんて思いもよらなくて、数秒間、立ち竦んでしまった。


「……透子ちゃん。なんでここに?」

「あ、いや、大学から帰るところだったんだけど、この近くのパン屋さんがすごく美味しくて、ママが買ってきてって言ったから」

「へえ、そんなパン屋あるんだ。この辺に住んでても全然知らないや」


純粋で、無垢で、何も穢れの知らなそうな、真っ白な透子ちゃん。

見てはいけないものを見てしまったと思ったのだろうか。明らかに透子ちゃんの目が泳いでいる。


「遊馬くん、彼女いたんだね」

「いや?彼女じゃないよ。相手結婚してるし」

「……ええ!?」


模範的な驚き方してくれるなぁ。