オウくんが、あの日みたいに家まで送ってくれている。
この住宅街は静かで、足音一つでもよく響くのに、二つあると余計に響いて変な感じがする。
ふと、オウくんの結んでくれた右足の靴を見た。一生、このちょうちょ結びが解けなければいいのになぁと思う。
「弟、大きくなったね。今何年生?」
「さぁ、知らね。高1とか高2とかじゃね」
弟のくせに、知らないんだ。オウくんらしい。
「ふうん。今時の高校生はませてる。私が高校の時は大学生の人と付き合ったら〜とか考えたことなかったなぁ」
彼がちらっと私を見て、目が合うとすぐに逸らされた。
「とこ」
「ごめん」
「ほんとはずっと、これが言いたかったんだ」
「お前はもう誰からもいじめられない。あの時、必死でドッジボールを練習して、苦手な球技と向き合って、最後ボールをキャッチできたお前を、もう誰もいじめたりしない」
私はこの日、初めてオウくんにドキドキした。
ドキドキして、何度も思い出して、眠れなくて、胸の痛みには嫌じゃない痛みもあるのだと、生まれて初めて知った。