「兄貴、よっぽど暇なんだね。羨ましいよ。俺みたいに父さんや母さんから期待もされず、弓もしなくていいんだからさ」
実の兄にそんな言い方、ひどい。
オウくんは好きで弓道を辞めたわけじゃないのに。オウくんだって両親の期待に応えようと、必死で、やってたのに。
何か言ってやらないと気が済まなくて、前に出ようとするとオウくんの腕に止められた。
なんで。何も言い返さないの?
「ところで透子さ、俺の彼女になってくんない?」
「……ええ!?」
「今クラスの女子に言い寄られてさぁ。大学生のオトナな彼女がいるって言ったら諦めてくれそうなんだよね。ま、透子にはもうちょっと色気出してもらわないといけないけど」
「え、いや、それはその、」
「あー、でも鈍臭いお子ちゃまな透子には無理か。どうせキスもしたことないんだろ?」
カアッと顔が赤くなると、オウくんが分かりやすく舌打ちする。「黙れ」という低い声は、弟を一瞬で黙らすのに一番効果的だった。
「こいつをいじめていいのは俺だけって決まってんだよ。何年も前からな」
自分の時は何も言い返さないのに、私の時は言い返すんだ。しかもそんな、横暴に。
できることならいじめないでほしいんですけど。
だけどオウくんの言葉に嫌な気持ちはしなかったので、私は何も言わなかった。

