にべないオウジ



———オウくんだ。


まるで対極に引き寄せられる磁石のように、花に引き寄せられる蜜蜂のように、私はその集団の元へ駆けた。



傷みを知らない黒い髪は、高校の時までは肩より短かったのにある時から伸ばし始めたらしく、男の人にしたら少し長い。

私は短い髪が見慣れているけど、短かくても長くてもオウくんはかっこいい。

今日はさらさらの髪をハーフアップにしているようだ。最近はこのヘアスタイルが多い。かっこいい。


一見物静かで柔らかそうなのに、オウくんはとても、


「オウくん!今からどこ行くの?講義?」

「それ、お前に関係ある?邪魔だから退けよ」


にべない。


「あ、桜司(おうじ)の金魚の糞ちゃんだ〜」


オウくんの後ろから男の人がひょっこりと顔を出して、やっほーとにっこり笑って手を振られるので、私もとりあえず手を振り返す。

金魚の糞ちゃんって。あだ名長いな。


私より20センチくらい背が高いオウくんを見上げると、1秒だけ目が合って、すぐに逸らされてしまった。