「それとも誰か一人、特別な好きな子ができたのかしらね?」
母がサラダを盛り付けながら何気なく放った言葉に、私は一瞬頭が真っ白になる。
あのオウくんの、特別な、好きな子。
オウくんは今まで彼女が出来てもすぐ次の彼女に乗り換えて、それを繰り返していた。
確か、高校三年生の時にそれがピタリと止んで、私の知る限り、オウくんは特定の彼女を作らなくなった。
「……ママ、特別な、好きな子って、どんなの?」
「え?そりゃあ、あの桜司くんに優しくされて、割れ物みたいに大切に扱われて、喜ぶ顔を見せたら彼はそれ以上に喜んでくれて、時にはヤキモチを焼かれて、そんな甘酸っぱいことよ」
「それは、すごく……素敵なことだね」
そんな奇跡みたいなこと、この世界にあるのだろうか。
だって想像すらできない。想像くらいさせてくれたっていいのに、割れ物みたいに大切に扱われる人は私じゃなくて、その女の人を思い浮かべた瞬間頭の中が拒否反応を起こす。
初めてオウくんに対して、怒った。
初めてオウくんに、自分の感情をぶつけた。
初めてオウくんにもいつか出来る、特別な女の子を想像して、胸が締め付けられた。

