にべないオウジ



だから、オウくんにはあんなこと言ってほしくなかったの。

あの時、私を救ってくれた特別なオウくんに、あんなこと、言ってほしくなかった。


私の事なんて好きじゃないし、付きまとわれるのが迷惑だって思ってるだろうけど、あの時のことをもう忘れちゃったみたいに、言ってほしくなかったの。



「透子ちゃんが不機嫌な理由、当ててあげようか」


別にいいんだけどな。わざわざ当ててもらわなくて。

だけど母は普段あまり怒らない私が珍しく不機嫌なことが楽しくて堪らないのか、ニヤニヤしながら天麩羅をお皿に盛り付ける。


「桜司くんに彼女ができたんでしょ」

「……もうそれでいいよ」

「ええっ、違うの?おっかしいなぁ。けどここ数年桜司くんの彼女できた噂聞かないわね?もう特定の女を作るのは飽きたとかそういう感じ?」


きゃーっ、色男ー!と高い声を出す母に、小さく溜め息を吐いた。


ここ一帯は住宅地で一軒家が多く並ぶ。勿論ママさん同士の井戸端会議も盛んに行われていて、そこでは工藤家の話題が一番盛り上がるのだという。


今日工藤さんとこの桜司くんが彼女と歩いているのを見た、最近彼女の好みが変わった、あの子は性格悪そうだから早く別れた方がいい、あの子は家庭的に見えるけど腹黒そう。

そんな言いたい放題の井戸端会議には、あまり参加したくないなと思う。