にべないオウジ



周りを見渡すのが怖くて、喧嘩も何もしていない相手から無条件に無視されるのが耐えられなくて、自分の物を誰かに隠されるのが辛くて、毎日俯いてばかりだった私に、憧れだったオウくんが素っ気なく言ったんだ。


「自分の足元見るのは、靴紐結ぶ時だけにしろよ」って。


オウくんはみんなの前に立って私を庇うことはしなかったし、孤立する私とずっと一緒に居てくれるわけでもなかったけど、たった一言、そう言って私の前でしゃがみ込んだ。

忘れもしない。みんなの憧れで、中学に入って彼女が何人もできて、人気者のオウくん。

その人が、何も躊躇わず、私の前で跪いて靴紐を結び直してくれたから。


「俯いてばっかのくせに、靴紐解けたままって。バカなの」

ぶっきらぼうにそう言って、見とれるような綺麗なちょうちょ結びをして、彼はなんてことなかったように立ち上がる。


みんな私を無視するのに。みんな私をいなかったみたいに過ごすのに。

みんなから注目を浴びているこの人が、私に話しかけてくれたことが奇跡のようで涙が止まらなかった。


わんわん泣く私を、オウくんは心の底から面倒くさそうに顔を歪めていたけど、その日は私の家まで一緒に帰ってくれた。

悲しいのか嬉しいのかどっちか分からない涙を、オウくんは拭うことも慰めることもしない。だけど私が泣き止むまで隣に居てくれた。