「桜司、あんたいい加減に……」
「オウくん」
嫌な、予感がする。
今までこの子が、こんなふうに桜司を見たことなんて、一度もなかった。
泣きそうになるのを堪えて、眉を寄せて桜司を睨んでいる。
透子が、怒ってる。それは小学校から一緒にいる私でも、滅多に見ない表情だ。
「ひどいよ」
パタン
まだ食べ終わっていないお弁当の蓋を閉じて、静かに言い放った透子はそのまま席を立つ。
私、遊馬くん、そして桜司。三人が同じようにぽかんと口を開けて、鋭い目をしている透子を見上げた。
「キリちゃん、私次の授業別館だから早めに行くね」
「え、ちょ、透子…!」
透子は、とても悲しそうな表情をする。
そういえば高校の時、桜司が他の女とキスしていたと私に言った時も、こんな顔をしていた。
「……私のこと、一番嫌ってるのはオウくんじゃん」
その捨て台詞は、桜司の心臓を突き破り、背中まで貫通するほどの殺傷力を持っていることは、魂の抜けた顔をするこの男を見れば一目瞭然だった。

