にべないオウジ



あんたがこんなところでくすぶってる間に、透子はどんどん遠くに行っちゃうよ。


「そうだ、オウくん。私初めて男友達ができたよ」


透子はそんなこじれた感情を持つこの男の気持ちなんて分かるわけもなく、何気なく報告する。

その言葉に桜司は噎せ返って、胸の辺りをトントンと叩いた。


「今度、オウくんにも紹介するね」


透子は私に言った。

オウくん以外の世界も見てみようと思う、と。

本当に意味で、人をちゃんと好きになってみたいの、と。


その時私はやっとこの子が桜司から解放されたと思って嬉しかったけど、今は素直に喜べない。

気付いて。気付いてあげて。この男は何も思ってないふりをして、隠れたところで唇をかみしめてる。


「は、嫌われないように頑張るんだな。お前はトロくて空気読めない世間知らずのお嬢様だからすぐいじめられるだろ」


あ、バカ。この空気を変えるために何か言おうとする前に、透子の顔が悲しく歪んだ。

透子にとって一番触れられたくないところに、こいつは入り込んで、ぐちゃぐちゃにした。それを言ったらこの子が傷つくって分かってるくせに。