にべないオウジ



「ほんとに怖かったの。ああいう急にキレる人苦手だなぁ。なんかさ、高校の時も急にキレる先生いたよね。数学の。なんて人だったかなぁ」


今までこの男は透子の話なんて耳も傾けていないと思っていたのに、そんな事なかった。

興味なさそうに違う方向を見ながら「タサキだろ」と私たちの知らない名前を呟く。

そうだ。無愛想だけど、素っ気ないけど、今までだって必要最低限透子の問いかけには答えていたし、無視をすることはなかったじゃないか。


透子が「ああ、それ!すっきりした~」と嬉しそうに笑ってお弁当の唐揚げを食べる姿に一瞬目を向けて、桜司は口元を手のひらで隠しながら口を緩める。


信じられない。普通の人間みたいに、好きな女の子の笑った顔を見て嬉しそうな顔をするなんて。


「キリちゃん、どうしたの?食欲ない?」

「……ううん、大丈夫」


だって、桜司、遅いよ。

もうこの子は成長しようと前に進もうとしてるんだよ。

いつまでも桜司を見ているだけじゃ何も変わらないって分かって、あの大きな瞳で色んな世界を見ようとしてるんだよ。

バカ。ほんと、バカ。透子だけを応援するつもりだったのに、そんなわけにいかなくなったじゃない。