もしあいつがそんなふうに透子の名前を呼ぶような感情を抱いてるなら、とっくに二人は両思いなんだから。
あんなひどい態度取ってるのに、辻褄が合わなくなる。
あはは、ないない!
ガラッ
「とこの連絡先ゲットできたあああ…!!」
え、うそじゃん。
「うんうん、良かったねえ。ボクのおかげだねえ。もっと感謝しようねえ。あっ、まって桜司やばい、人来た」
スマホを講義室の天井に掲げて、まるで神を崇めるかのような格好をする男が一瞬動きを止め、恐る恐る扉の前にいる私を見る。
目が合って、完全に見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて目を逸らす。
今のは幻今のは幻今のは幻。
てかなんであと3分で授業始まるのに、この部屋には私たちしか居ないわけ。
とりあえずまずは逃げなきゃ。右足に力を込めた、その時だった。
「あ、透子ちゃんと桜司の幼なじみ!えーっと、キリちゃんだっけ?良かったなぁ桜司。まだバレたのがキリちゃんで!」
ケタケタ笑いながらこの前遊馬と名乗った男が扉まで歩いてきて、私の腕を掴んで、ぐいっと強引に部屋の中へ入れる。
逃げられると思うなよ?と笑って首を傾げるこの男が、私はとても恐ろしかった。

