「でも急に解剖室に入ってきた時さ、その場ですぐに蹲って、変なこと言ってたんだよね」
「それただの変質者じゃない?」
「トコトコって、魘されるみたいに。歩く時の擬音語?体調でも悪かったのかな」
解剖してじっくり中身見てあげたぁい、とうっとり目を閉じる友人に、ダメだこりゃと席を立つ。
「あ!彼にまたいつでも来てって言っといてねー!」
「もう二度と授業の邪魔するなって言っとくー」
ていうか、できることならあんまり関わりたくないわ。透子がいる以上、嫌でも関わることになるんだけどさ。
次の講義で使う部屋まで歩きながら、さっき彼女が言っていたことを思い出す。
トコトコってなんだ?あいつもいよいよ頭がおかしくなったか?
突然文系の人間が理系の、しかも解剖室に入って蹲り、歩く時の擬音語を唱えていたなんて、どう考えても変質者だ。
トコ、トコ、トコ…。
そういえばあの男は、中学生の時に一度だけ、透子のことを「とこ」と呼んでいたのを見かけたことがある。
……って、んなわけないか。

