「嫌だ」
「なんで!?たった二文字、呼ぶだけだよ」
「そのたった二文字が猛烈に嫌だっつってんの」
「……スマホには登録したくせに」
ちぇ。オウくんのケチ。
口を尖らせながら、私も自分の連絡先の「工藤桜司」の名前を「オウくん」に変えて、名前の最後に王冠の絵文字をくっつけた。
高校の時は私の連絡先なんて必要性を感じないって言ってたくせに、なんの風の吹き回しだろうか。
じいっとオウくんの連絡先が追加されたスマホを眺めている私を置いて、彼は背中を向けてさっさと歩いてしまう。
慌てて走って追いついて、後ろを歩いた。
「オウくん、まだおでこ痛い?」
「もう、痛くない」
「そっか。良かったね」
笑ってオウくんを見ると、一瞬だけ彼が振り返って目が合って、すぐに逸らされる。
「と……」
「と?」
「と…、とっとと家帰れ!」
バタン!彼が突然近くにあった部屋に入って扉を閉めるので、その茶色い扉を唖然と見つめる。
やっぱりオウくんってちょっと変だ。その部屋、理系の人達が蛙の解剖とかする部屋なのに。
彼の奇行に首を傾げながら、私はスマホを宝物みたいに握りしめて、スキップをしながら言われた通り家に帰った。

