にべないオウジ



工藤 桜司

連絡先に追加されたその名前に、私は三度見した。


「いいか。お前みたいな鈍臭くて暗記が苦手で球技がド下手で字もちっちゃい奴と付き合う相手の身にもなってみろ。可哀想で居た堪れないだろ」


そう言いながら、オウくんは手元のスマホの画面に親指を滑らせている。


「大体、あの男とお前は似合わないんだよ。もし歩いてて熊に襲われたらどうする?あいつは絶対お前を置いて走って逃げるね」


ふと、オウくんのスマホの画面が見えてしまって、私は思わず食い気味に覗き込んだ。信じられなくて、彼の左腕を掴んで、よく見えるように画面を傾けた。

「くぜとうこ」と登録している私の名前をわざわざ変更していたのだ。


「とこ」と。

彼がたまーーーに、4年に1回くらい、オリンピック周期で呼んでくれる呼び方に。


「わあ!!お、おま、何見てっ、近い!」

「オウくん、その名前で、呼んで!」


覚えてたんだ。いつもは「お前」とか「おい」とかしか言わないのに。

私のことそうやって呼んでたって、ちゃんと覚えてたんだ。


オウくんは私から一歩仰け反って、心の底から嫌そうに顔を歪める。そんな顔をされたって痛くも痒くもない。何万回と、その表情を向けられているのだから。