にべないオウジ



———ゴンッ!


あ、頭、曲がり角の壁にぶつけた。

想像も出来なかったその様子に、私はぽかんと目の前の光景を眺める。


「ちょ、桜司大丈夫?この前から変だよ。たんこぶなってんじゃない?」


隣を歩いていた女の子が心配そうにオウくんの額に手を当てる。オウくんもそれに抵抗することはなく、痛そうに顔を歪めるわけでもなく、ただぼんやりとしている。


遊馬くんに連れられてここに来たわけだけど、なるほど。オウくんも普通の人間みたいにどこかにぶつけたり、躓いたりするんだ。

10年以上一緒に居て、初めてそんな姿見たよ。


「桜司ー、連れてきてあげたよん」


恐る恐る、女の子に頭を撫でられているオウくんの傍に寄って、俯いたままの彼をじっと見つめた。

痛そう。大丈夫かな。

女の子は私が邪魔だとは直接言わないけれど、冷めた目を私に向けた。嫉妬してる目。この人はこうやって、彼に近付く女の子みんなにそんな目をしているのだろうか。


弾かれたように顔を上げたオウくんの、透き通った色の瞳と目が合う。

頭をぶつけて痛かったのか、何なのか。泣きそうな顔、してる。