仁見さんはやっぱり諭すように、私を見た。
受験の時、担任の先生に「その志望校は無謀だ。工藤と同じところに行きたいのは分かるけど考え直せ」と言われた時のことを思い出した。
「好きでもない男と付き合っても何の意味もないよ。無理に彼氏作ろうとするのはもうやめな。多分それ時間の無駄になる」
オウくんとは正反対の雰囲気で、オウくんと正反対なことを言う。
その通りだ。その通りって分かってるけど、この人も一度オウくんと面と向かって話してみればいいんだ。
あの独特な雰囲気に、何を考えているか分からない瞳に、手を伸ばしても伸ばしても掴めないその存在に、胸が焼けそうになって焦がれる。
あの人に何か言われれば、頷く以外の選択肢がなくなるの。
その時、仁見さんが何かを閃いたようにポンと手を叩いた。
「分かった。まずは友達になろう」
「友達?」
「そ。男友達がいないって言ってたでしょ?確かに久瀬さんは工藤くんしか知らなすぎる。俺みたいにタイプの違う男の意見聞くのも新鮮だと思うけど」
正直もし付き合っても、大会も近くてあんまり時間取ってあげられないしね。と付け加えて、仁見さんは眉を下げた。
「仁見さんって、真面目な人なんですね」
「……う、悪い?」
「いえ。むしろ好感を持てました」
にかっと笑うと、仁見さんはまた困ったように笑う。
そしてこの一連の流れの前半部分だけを切り取った「二年生の女子が弓道部のキャプテンに公衆の面前で人目も憚らず告白した」という噂は、瞬く間に大学中に広まるのだった。

