「ごめん、オウくん。私行くね!」
怪訝な顔をしたまま固まるオウくんを置いて、私はこの場から離れる。
走って向かう先は、弓道場。矢を放つ音が懐かしくて、少し心が踊った。
いつの間にかオウくんの弓道姿を見ている間に、私もこの空気感が好きになっていたんだなぁと気付かされる。
つい先程別れたばかりの先輩を見つけて、今から弓道衣に着替える寸前のところで、腕を掴んで止める。
彼は驚いたように振り返って、私を見つめた。
「く、久瀬さん?突然どうしたの…、」
「あの、私の彼氏になってください!」
「へ?」
きっとオウくんは、この事を見越して"彼氏を作れ"なんて言ったんだ。
「私に恋とは何かを教えてください!お願いします!」
恋が何かも大して分かっていない私に気付いてたから、この事を気付かせるためにきっとあんな事言ったんだ。
すごい。やっぱりオウくんはすごいよ。昔から成績も学年トップだったもんね。賢い人は常に先を見据えてるんだ。
「えっと、お、お断りします?」
「ええ!なんでですか!」
まさかの、お断りされてしまった。やっぱり彼氏を作るのって、難しい。

