「今日は、家に帰りたく、ない…」
「……」
大学の最寄り駅。いつもなら電車に乗って同じ駅で降りて、他愛もない話を一方的に私がして、たまーに相槌を打ってくれる。
先に私の家に着いて、バイバイって手を振ると、オウくんはいつもぎゅっと唇を噛み締める。
だけど何かを言われることも何かをされることもなく、オウくんは私にはバイバイも言わず家に帰っちゃう。それがちょっと寂しい。
「しんどすぎる……」
両手を顔に覆って、溜め息と共に零れ落ちる苦しそうな声に、私は首を傾げた。彼はたまによく分からない奇行に走る。
手を覆って項垂れるので、夕焼けに染まる黒い髪が地面に垂れた。その髪に、とても触りたい。
オウくんに好きだって言ってもらえて、私達はいわゆるお付き合いをすることになったけど、多分、いや絶対、好きだって思う気持ちは私の方が多い。
手を伸ばして、柔らかいその黒髪に触れる。ぴくっとオウくんの体が小さく反応して、顔を上げるその表情はとっても不機嫌そう。
あ、ダメだったかな。そう思って慌てて手を引っ込めようとすると、すぐに掴まれて、オウくんの手のひらはびっくりするくらい熱かった。
「勘弁して…」
お願い。と、切なげに見つめられて、そっと私の指にキスをするオウくんにたまらなくドキドキして、このままどこか飛んでいきそう。
態度で、表情で、私を好きだって言われているみたいで、恥ずかしすぎて目を逸らしたかったけど逸らせないくらい、オウくんの瞳は熱かった。

