「あのね、オウくん。お願いがあるの。今日は家に帰りたくない。私の事…どこでもいいから攫ってほしいの」


オウくんがキャンパスのど真ん中で跪いて私に気持ちを伝えてくれた日から、一週間。

特に私達は以前と何ら変わらない生活を送っていた。オウくんは彼氏になったからといって突然甘~~くなるわけでもなく、めちゃめちゃ優し~~くなるわけでもない。

特に何かが進展したわけでもない。


縋るようにオウくんを見上げると、分かりやすく彼の喉仏がごくりと動いた。


時は今朝に遡る。





「透子ちゅわぁぁぁん、たっだいまぁぁぁ!ちゅーーー」

「ちょ、パパ、やめてっ、近寄らないでー!」


久々に父が家に帰ってきて、熱い抱擁と共に唇を尖らせてこちらに向けられる。必死でその抱擁から逃れて睨むと、父は情けなくも涙目で「反抗期か!?」と頭を抱えた。

こんな人が会社の社長なんて大丈夫なんだろうか。父を見る度思う。


「パパ、私もう20歳だよ?お父さんとキスする子なんていないから!」

「よそはよそ!うちはうちだ!なんだ透子、彼氏でも出来たのか?」

「え」

「許さない。パパはぜっっっっっっっっったいに許さないぞ」

「……」


父もオウくんのことは知っているけど、言いにくい。非常に言いにくい。とりあえずは黙っておこう。面倒なことになりかねない。