にべないオウジ



そんなこと言われたこともなくて、考えたこともなくて、思わず固まってしまう。

一瞬頭が真っ白になって、何か言い返さなきゃって思うのに、返す言葉が見つからない。


小学一年生の時、出席番号でオウくんが後ろの席になった。

正直第一印象は覚えていない。それくらい昔の話で、それくらい幼かった時の話。


三年生になるとみんな恋愛話に浮き足立つようになって、誰々が好きだと騒いだり、誰かが誰かに告白をすれば一気に注目を浴びるようになった。

その頃からだ。オウくんが目立ち始めたのは。

私の出席番号が後ろの男の子は、いつもみんなに囲まれていて、いつもその中心で笑っていた。

私の椅子を誰かに使われることなんてしょっちゅうで、だけど退いてとは言えなくて、よく教室の中をウロウロしていたことを覚えている。


みんながオウくんを好きだと言ったから、私も好きになった。

時期は違えど、足が速くてみんなの中心にいる人気者のオウくんを、女の子たちは必ず1回は好きになった。



きっかけなんて、分からない。


私の落とした消しゴムを面倒くさそうに取ってくれた時かもしれない。

日直の日、花に水をあげている姿を見た時かもしれない。

オウくんの家の道場で、弓を引く姿を綺麗だと感じた時かもしれない。