私が話しかけに行ったら、絶対嫌な顔するくせにさ。ずるいよ。
だけどいいんだ。こうやって隅っこの方で姿を見ているだけで、いいの。頑張って勉強してオウくんと同じ大学に入ったんだもん。これくらいご褒美として許されるでしょ。
「久瀬さんはさ、工藤くんのことが好きなんだよね?」
「え?はい、そうですけど…」
「工藤くんにドキドキしたり、胸きゅんしたりするの?」
オウくんを見るのをやめて、私は仁見さんをきょとんと見つめる。
この人からそんな少女漫画みたいな甘酸っぱい単語が出てくるとは思わなくて、ちょっと似合わない。
ドキドキ?胸きゅん?オウくんに?
「ドキドキ、胸きゅんは……しないかなぁ」
「え、しないの?それって好きって言える?」
「彼のこと考えてると、いつも胸がぎゅーって痛くなるんです」
すると仁見さんは、諭すように言った。
「恋って、痛いだけじゃないよ」
例えば暑いとか寒いとか、早く帰ってゴロゴロしたいとか、自分の中にある当たり前にある感情。私がオウくんを思う気持ちは、それに似てる。
オウくんへの気持ちがなくなった自分が、想像できないの。
「その感情って、本当に恋なの?」

