お姉ちゃんが、本格的に家を出ていくのだと決まって、引越し業者が姉の荷物を運んでいく。
沢山の服、化粧台、本棚、音楽プレイヤー、ベッド、鞄、諸々。
空っぽになっていく部屋を眺めている私の後ろに立って、姉はぽつりと言葉を漏らした。
「ごめんね、透子。一人にして」
「……」
「ごめんね。何もしてあげられない姉で」
「……」
「ごめんね。桜司のことで傷付けて」
「……」
「ごめんね…」
「謝るんだったら、ずっと家に居てよ。寂しいよ、お姉ちゃん」
振り返ると、もう既に泣いてしまっていて、お姉ちゃんは困ったように笑った。引越し業者の人達が「何事だ」と私たちを見る。お姉ちゃんはお構いなしで、私の涙を拭ってくれる。
「ごめんなさい。大嫌いなんて嘘だよ。大好きだよ、お姉ちゃん」
「ふふ、うん。私も大好き」
だけどね、と続けるお姉ちゃんの瞳はキラキラしている。もうなんの迷いもなくて、この家に未練なんてないのだというように。
「もう決めたの。自分の足で生きていくの。透子もいつかそんな日が来るよ。その時は私が味方してあげるから、言ってきなね」
「……うん」
「それに、いつでも泊まりに来たらいいじゃん。家が別々になっても、私はずっと透子のお姉ちゃんなんだからさ」
お姉ちゃんは家を出ていく前、私に色んな服と靴を置いていってくれた。もうこれでしばらくは服に迷うことはなさそうなくらい。