「……ちょっと、泣かないでよ」

「だって、透子が…透子がぁっ…」

「ったく、見た目に合わず情けないなぁ」


透子、ごめん。お前を傷付けてばっかりでごめん。出来損ないの人間でごめん。なんでお前はこんな俺の後ろをずっとついてきてくれてたんだろう。俺には分からないよ。だって俺は、もし自分が女だったら俺みたいなやつ絶対好きにならない。

こんな、面倒くさくて、口が悪くて、素っ気なくて、仏頂面で、素直じゃなくて、相手の気持ちを考えられない男と、付き合いたいなんて思わない。


「桜司、あんたは初恋が私だって言ったけどさ、それは違うよ」


依子さんの冷静な声が、頭に響く。


「気付いてなかったんだろうけど、私に会う度に透子が家に居ないか気にして、透子を見かけたらずっと背中見つめて、透子の話する時はいつもちょっとだけ楽しそうで、透子との会話は全部覚えてた。私を見る目とは明らかに違う。純粋で素直な透子に、ずっと憧れてたんでしょ」

「あこ、がれ…」

「桜司の初恋はさ、透子だよ」


顔を上げると涙で視界が歪むため、ぐいっと乱暴に腕で拭う。依子さんが腕を組みながら俺を見下ろし、眉を顰めていた。お前はいつまでそこでくすぶっているんだと、言われている気がした。


「私ならこんな面倒くさい男ぜーったい嫌だね。桜司、あんたはその雰囲気で色んな女が寄ってくるのか知らないけど、あんたの中身を知ったらみーんな引くからね?」

「……はい」

「桜司を本当の意味で好きでいてくれるのは、この世で透子しかいないんだから」


透子。会いたい。今すぐ謝りたい。許されるのなら、抱きしめたい。そして許されるなら、お前に好きだと伝えたい。