生まれて初めて、透子が怒るところを見た。怒っているのか、悲しんでいるのか、どちらにせよあんな感情的になっている透子は、小学一年生から今まで一度だって見たことがなかった。


いつもふわふわ笑っている透子。ちょっと嫌なことがあっても顔には出さない。顔には出さないだけで心の中では色々溜まっていたはずなのに、俺は気付いてやれなかった。

バカだ。大バカだ。いつも笑って許してくれると思っていた。透子は、天使だから、あいつが怒るわけないって。

なんで分からなかったんだろう。透子だって人間なのに。人並みに怒ったり悲しんだり叫んだりする、普通の人間なのに。


どこを探し回っても透子は居なくて、何度連絡をしても出てくれなくて、絶望感に苛まれる。

もしかしたら家に帰ってるかもしれないと思って、透子の家に戻ってみるけど、そんな気配もない。


「ダメだっ、どこ探しても見つからない…」


同じように探していた依子さんが息を上げながら膝に手をついた。

透子のお母さんには依子さんと居ることにしていて、この騒動は知らないらしい。警察を呼びかねないからだそうだ。

だけど俺は警察を呼んだ方がいいんじゃないかと思うまで混乱していた。だって、何かあってからじゃ遅い。もし事故に遭ったり、誰かに連れ去られたらどうする?

そんな事がもしもあったら、俺はもう、生きていけない。


「……桜司」


透子の家の前で蹲って、ぐっと唇を噛み締める。じわじわと、腕が湿っていくのを感じる。