「よしよし。桜司に冷たくされてばかりで辛かったね。いつもお姉さんと比べられて、お母さんからも縛られて、辛かったよね。もう大丈夫だよ。透子ちゃんを苦しめる人は、ここにはいない」
「わ、私、帰っ……うわ!」
立ち上がろうとすれば遊馬くんに強く腕を引っ張られて、ベンチに座る彼の膝の上に座らされる。怖くて足をバタバタして身をよじると、彼は私の頭を撫でながら首筋に唇を吸い当てた。
びくんっと体が震えて、恐怖に涙が滲む。
だけどそんな私をあやすように、遊馬くんは私の頭を撫で続ける。
「かわいい。ねえ、桜司なんかやめて、俺のものになってよ」
お願い。そう言って私を見つめる瞳に、一瞬だけ自分が映った気がした。強く私を求めているように見える。寂しがりの遊馬くん。一人でご飯を食べるのが苦手な遊馬くん。
頭を撫でていた手のひらを頭の裏に回し、無理矢理固定された。逃げることが出来なくて、じたばたするのに簡単に押さえつけられる。
うそだ。いやだ。オウくん。
だけど遊馬くんが苦しそうに私を見て、求めるので、上手く声が出せない。
「……なーんてね。冗談。少しは元気出た?」
「…………へっ?」
冗、談?
ひょいと体を持ち上げられて、私を地面に立たせてくれる。遊馬くんは飄々とした表情で笑って「顔、真っ赤ー」とからかった。
どの遊馬くんが本物なのか、分からない。困惑していると、遊馬くんはいつもみたいにへらりと笑って「帰ろう。送るよ」と、ちょっと切なそうな顔で振り返った。
何が本音で、何が冗談?この人が怖い。なのに優しい。分からない。だけど聞けなかった。聞いちゃ、いけない気がした。