「あの時のことって?……あー、桜司の童貞私が貰った話?」
どろり、袋の中のアイスが、周りの暑さに、溶けていく。
「その言い方…」
「ごめんごめん。てかそんなの透子に言うわけないじゃん。こんなダメな姉だけど、妹の傷付くこと敢えて言う女だとでも思ったの?」
「や、そういうわけじゃ、ないけど。一応…」
「あはっ、桜司かわいーねー。体は立派に成長してるけど、私に初体験を捧げた幼い桜司を思い出すわぁ。まだまだガキだね」
お姉ちゃんは色っぽく微笑んで、オウくんの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。そんなことされると絶対不機嫌になるはずなのに、乱れた髪を戻しながら、彼は何も言わない。
複雑そうな顔をして、仏頂面で、「子供扱いすんな」と言っている。
拗ねたようなオウくんは見たことがなくて、私の心にじわじわと黒い染みが広がっていくのを感じた。
前に遊馬くんの家で話してた、オウくんの初めての相手って、お姉ちゃんだったんだ。
だから二人は接点なんてないのに何故か仲良くて、たまにオウくんは私の家とかに来てたんだ。
「てかもう、そんなこと忘れていいのに。時効でしょ?」
「……忘れるかよ。依子さんは、俺の、初恋であるし」
知らなかった。何も知らなかった。二人がそんな特別な関係で、大切な関係って、知らなかった。何も知らずに、私ってバカみたい。なんで言ってくれなかったの?傷付くって思ってたなら、なんで隠し通してくれないの?痛い。胸が焼けるみたいに痛い。
オウくんに触らないで。気安く触らないで。私だってこの人の頭を触るのに何年もかかったのに。お姉ちゃんはとっくの前に、簡単に触れてたんだ。そんなのひどい。許せない。
「あ、そうなの?かわいー。だけど桜司、あんたの初恋は、」

