にべないオウジ



講義が始まる二分前。

教室がざわっとするので、ああ、オウくんが入ってきたんだなぁとぼんやり思う。

オウくんが教室に入るだけで周りは浮き足立つし、女の子は身なりを気にし出すし、花が咲いたみたいに空気が華やかになる。


だけど前の方に座っている私には関係ないことなので、ちょーっとだけ今日のオウくんも拝見しておこうと思い、後ろを振り向いた時だった。


ざわざわする声が、前の方まで移る。授業はほとんどサボってそうなのに、意外と毎日出席する真面目なオウくん。

今日は茶色のシャツに、ベージュのスラックス。顔は王子様みたいに穏やかそうで綺麗だけど、いつも身なりは意外とラフ。紺も似合うけど、こういうアースカラーも似合う。


誰よりもアースカラーを着こなす彼が、あろうことか私の隣に座った。

後ろの席がいっぱいなのかと確認するけど、全然そんなことない。おはようとか、隣いい?とか、そんな言葉があるわけもなくて、自分は前からいつもここに座っているのだと言わんばかりの表情だ。


「あ、あの、席間違えてない?」


共通科目は同じ講義が多かったけど、今までこんなふうにオウくんから近付いてきたことなんてなかった。

み、見られてる、周りの人達にめちゃくちゃ見られてる。「あの子誰?」「私知ってる。久瀬透子だよ」と何故かフルネームを覚えている人もいて、身震いがした。


先生が入ってくるので、教室は静かになる。オウくんはそっと私の顔を覗き込んで「間違えてない」と、真面目な顔して、答えた。