にべないオウジ




母は、姉が家に帰ってくると、「依子ちゃん、依子ちゃん」と姉に嫌われないようにウザがられないように必死で振舞って、だけどそれが逆効果で姉には鬱陶しそうな顔をされている。

姉が家に帰ってこないと、私は母から姉の愚痴を永遠と聞かされ、最後に絶対「透子ちゃんはママの味方でいてね」と付け足す。


いつからだろう。それが重荷になっていたのは。


ママ、私だってお姉ちゃんと同じ人間なんだよ。たまには家を空けたいと思うし、まぁお姉ちゃんの場合その頻度が多すぎるけど、だけどお姉ちゃんはもう社会人だよ。ママの手から離れるのも、当たり前なんだよ。

昔から自由奔放な姉に振り回されるのは、妹の私だった。それが普通だと思っていたし、姉のことは好きだったから特に何も思っていなかった。

だけど時々、それがすごくしんどくなる。



「あ、透子。おかえりー」

「…ただいま。最近よく帰ってきてるんだね」

「あー、うん。一人暮らししようと思って」

「え?」

「色々自分の荷物とかまとめなきゃいけないでしょ」


シレッと、それがさも当たり前かのように言い放つ姉は、やっぱりラフすぎる格好で家の中を歩き回っている。

一人暮らしという言葉に驚いて、私はしばらくリビングの入口で立ち竦んだ。そりゃあ、姉の歳ならしててもおかしくないけど、母が許すとは思えない。


目を見張ると、困ったように笑われる。

私は笑うと子供っぽくなるけど、お姉ちゃんは笑うと色っぽくなる。