「嫌だよ!なんで突然そんなこと言うの!?」
「……栞さん」
「嫌だ、嫌だ遊馬くんっ、独りにしないで…」
運転席から身を乗り出して、縋るように俺の胸に額を擦りつける。すり、と擦れる部分が切なく、俺は唇を噛み締めた。
「だけど、ずっとこの関係を続ける訳にもいかないでしょ。栞さんにだってもう家庭があるんだから…、」
「そんなもの要らない。遊馬くんがいいなら、私一生遊馬くんの家で暮らす。旦那の元になんて帰らない。ねえ、そうしよう?私が出られないように鍵でもかけてくれていいから。遊馬くんに精一杯尽くすから。ねえ、だから、お願いっ」
ああ、この人も狂ってしまった。
そうさせたのは紛れもなく自分で、もう昔好きだった柔らかい笑顔なんてどこにもなくて、ただ必死に俺に縋る虚しい人しか、ここには居ない。
彼女は執拗に俺の唇に唇を合わせ、奉仕するように自分で動いた。そんな様子を、目を閉じることもせず、ただ眺めていた。
「んんっ、はっ…遊馬くん、ぁっ」
俺に必死に尽くす彼女の頭を撫でると、恍惚とした目を細めて、もう一度唇を合わせられる。段々深くなるそれに、俺は乱暴に彼女の頭を寄せ、深く、長く、絡ませ合った。
運転席のシートを最後まで下げる。
もう既に濡れているそこに遠慮なく指を入れれば、彼女は顔を歪めて、だけど嬉しそうに、だけど切なげに「ああっ!」と声を出し、背中を仰け反らせた。
俺も、ちゃんとあの子と向き合うためにケジメつけようと思ってたんだけどなぁ。
あの子の笑顔を思い出す。あの子の真剣な顔を思い出す。きっとこんなふうに簡単に触れていい子ではない。好きだ。好きなんだ。これが、ありふれたごく普通の恋になるのかは分からないけど、好きなんだよ、透子ちゃん。
俺たちは車内で、欲望のまま肌を寄せ合い、性急に絡み合い、そのまま果てた。

