だけど透子ちゃんが気付かないのも無理はない。こんな、何年も一緒にいるのに気が付かないのも、悪いのは透子ちゃんじゃない。
「……あっ、オウくん、福神漬け要らないの?」
その問いかけに答えることはなく、桜司は荒々しくお盆を持って透子ちゃんの姿が見えない席へと移った。
俺は溜め息を吐いて桜司の隣を座る。
お前がこんな態度ばっかり取ってるから、いつまで経っても透子ちゃんもお前の気持ちに気付いてくれないんだよ。
「桜司ぃ」
「とこに、振られた…」
「そんな後悔するなら言わなきゃいいのに」
「……それが出来たら後悔しない」
「ほんっと、不器用っつうかなんつうか」
ただひたすらにガツガツとカツカレーを食べる桜司は子供みたいで、俺はじっとその姿を眺める。
「食堂で泣くのだけはやめてね」
「……ぐすっ」
俺はこの不器用で、面倒くさくて、意味が分からない絡まり方でこじらせていて、どうしようもない王子が、どうにか素直になって報われてくれないだろうかと。
願わずにはいられないのだ。
魔法使いになってこいつに魔法をかけられたらいいのに。
なんて、柄にもないことを思って、ちょっと寒気がした。

