桜司も自分が何を言っているのか訳が分からなくなっているのだろう。
お前みたいな女とは付き合いたくないねって思ってもないのに言っちゃった→悔しかったら彼氏でも作ってみなって思ってもないのに言っちゃった→本当に彼氏が出来たらどうしよう→急にいい感じの男が現れた→パニック→あいつと付き合うのか?→俺以外の男と付き合わないでほしい→俺と付き合え
やべぇよ、面倒くさい超えてるよこれ。
「あー、透子ちゃん、あのこれはね」
「でも気を使ってもらわなくて大丈夫!」
「え」
「オウくんに認めてもらえるように、頑張って彼氏作るね!」
世界を平和に幸せにするような屈託のない笑顔が、確実に桜司の心臓をナイフで突き刺し抉った。
あーあ。ご愁傷さま。
震えてる。ぷるぷる震えてる。早くBランチのカツカレーを食べたらいいのに、桜司はスプーンを左手で持ったまま、小さく震えてる。
「あっ、キリちゃん!こっちー!」
「透子。……げっ、またなんでまたこの男がいるわけ?相変わらずすんごい無愛想だし」
「オウくんカレー好きだから。はい福神漬け」
いやいやいや違うよ。確かに桜司はカレーがメニューに入ってたら絶対カレーを頼んで福神漬けをたっぷり乗せるけど、そうじゃないよ。
この席の近くに福神漬けが置いてるからじゃないよ。
透子ちゃんがいるから、ここに座ってるんだよ。

