「何ぼーっとしてんの?金魚の糞ちゃんもやりなよ、花火」
「あ、ありがとう…」
もうみんな自分の持っている花火に火をつけて、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら楽しんでいた。花火を振り回したり、顔に近付けたり、鼠花火をつけて大声で笑ったり。
危ないって注意する人なんてどこにもいなくて、私がおかしいんだろうなって思ってしまう。
というか、金魚の糞ちゃんって…。とは言えず差し出されるままに花火を受け取った。
「透子」
ライターを持ったオウくんが、私たちの傍にやって来る。たったそれだけのことなのに、バカみたいに心臓が騒ぐ。
「こいつの名前、透子だから」
暑いのか、Tシャツの袖を肩まで捲りあげていて、さっきまで水遊びをしていたのか、ズボンの裾が少しだけ濡れている。
意外だ。この人は夏があまり似合わないから。だけど人並みに夏を楽しんでいる姿が可愛くて、見とれてしまう。
透子って、呼んだ。私のこと。どうしよう。花火なんかよりオウくんのことしか目に入らない。なんのご褒美?私まだ誕生日じゃないよ?
「とこ、はい。火」
「あっ、うん、ありがとう」
カチッとオウくんが火を灯して、私の花火に光がつく。シャアアという音が少しうるさくて、だけど心地いい。熱い。ノースリーブで、良かった。

