「ちょっと遊馬くん、私まだ行くなんて言ってない…、」
『……』
「おーい、遊馬くん?」
『……俺』
耳元でくすぐる、ちょっと低い声。彼の声変わりは中学一年生の時だったと思う。急に大人みたいな声になって、私には無い、喉仏が出来ていて、じーっと見入ってしまったことを覚えている。
「あ、オ、オウくんも一緒だったんだ…」
『来れる?花火』
「……うん。行きたい」
この前、オウくんは社会学部の棟に入って、周りにまだ学生が居たのに、そんなものどうでもいいといった態度で私を呼び止めた。
その時のことを思い出すと、私は寝られなくなる。あんなことあのオウくんが言うわけないのに。誰かに操られてた?
『待ってるから』
ブチッ
私の返事なんて聞いてくれないオウくんは、そのまま乱暴に電話を切る。
待ってる、だって。すごい。信じられない。私のこと待ってくれるの?何の気なしに言った言葉かもしれないけど、舞い上がるに決まってる。
オウくんは言った。もう彼氏なんて作らなくていいって。誰とも付き合うなって。
前までは言われたら言霊のように私にまとわりついて、それを遂行するのが自分の指名だと思っていた。だけど、何故だか今回は違う。
命令じゃなくて、お願いをされているみたいで、すごくくすぐったい。

