「こっち向けよ!!」
シン、と辺りが静まり返って、透子は信じられないみたいな顔でゆっくりと振り向く。周りの生徒が俺たちを見て何やら話しているようだけど、そんなことどうだってよかった。
「もう、彼氏なんて作らなくていい」
「え…?」
「誰とも付き合うな」
俺を凝視する透子の瞳には、戸惑いと、驚きと、不安の色が入り乱れている。
怖い。人と向き合うのって、こんなに怖いんだ。何も知らなかった。こいつはいつも俺と向き合おうとしてくれたのに。何も知ろうとしなかった。
クラスの人気者とか、王子様とか、そういう称号なんて関係なく、工藤桜司として、向き合ってくれてたのに。
「お願いだから、目、逸らすなよ…」
へたりとその場に座り込む。
もう彼氏なんて作らなくていい。誰とも付き合うな。俺がお前を好きだから。お前が傍にいてくれなきゃ、生きていけないから。
座り込んだまま、小さく息を吐く。すると、目の前に影が落ちた。影すら愛おしいと思うのは、病気だろうか。
「えい」
ぐ、透子の人差し指が俺のつむじを押す。
思わず、顔を上げた。きっと、情けない顔をしていると思う。

