「煙草は体に良くないんだよん」
「うっさい死ね」
「八つ当たり反対!」
煙草を吸うのも面倒になって、まだ灰は残っているけど灰皿に煙草を押しつぶす。ジュ、と煙の音がして、俺は喫煙所を出た。
「桜司はさぁ、ちゃんと考えたことある?」
何を。とは言わず、目だけ遊馬に向ける。
痛々しい顔。どうでもいいので何かあったのかは聞かないけど、痛そうだ。こいつなら殴り返して、ここまでの傷を作ることはなさそうなのに。
「透子ちゃんが自分から離れていく未来」
ゆるりと笑うその表情に、俺は一瞬背筋が凍った。遊馬の言葉になのか、その表情になのか、分からない。だけどその未来を想像すると、俺はひどく打ちのめされる。
「なーんてね。ちょっと聞いてみただけ」
俺には透子しか居ないけど、透子には沢山大切な人が居て、守りたい人が居る。俺だけじゃない。しんどい。胸が張り裂けそうだ。
「透子が…目を合わせてくれない…」
「うんうん。桜司も散々やってきたけどね?」
「どうしよう。彼氏ができたって言われたら」
「いや、最初桜司が作れって言ってたけどね?」
「言ってくる」
「は?」
「行ってくる」
木曜日、透子の三限の授業は社会学部B棟3階の3-B。自分の受ける教室は何日経っても覚えられないのに、あいつの受けている部屋ならすぐに言える。

