忘れ物を取り来ただけなのだろうか。
俺の斜め前の机の中から参考書を取り出して、その分厚い本をぎゅっと胸の前で抱きしめたまま、相手が俺を見つめる。
見るな、見るな、見るな。お前に見られたら、俺は、何かのリミッターが、外れるような音がする。
「……なんで、お前が泣くんだよ」
ポタ ポタ ポタ
リノリウムの床にいくつも染みを作っていくこの女に、目を疑う。
その澄んだ瞳の中に入ったら、どんな景色が見えるのだろう。その瞳から、今、無数の涙が零れている。それが奇跡みたいで、信じられない。
なんで、やっぱりこいつ、バカだ。
だけど俺はその姿に目を奪われて、もう手元の参考書に視線を戻すことなんて出来なかった。
とっくにこいつに見とれて、こいつから目が離せなかった。
「だって、オウくんが泣かないからじゃん」
は?何、言ってんの。
「オウくんが、悲しくて、虚しくて、辛すぎて、涙も出ないくらい傷付いてるから、代わりに私が泣いてるんじゃん」
透子は、どうしたらそんな綺麗な涙が零せるのだというくらいに、俺のために、俺の代わりに、それを流した。
拭うことはしない。止めることもしない。もう涙も出ないくらい絶望していた俺の気持ちに代わって、透子は悔しそうに涙を流し続けた。
ああ、俺、弓が大好きだったんだ。
そんな分かりきったことに、今更気が付いて、泣き叫びたいほど、心臓が強く絞られるように悲鳴をあげた。

