「……あ…」
微かに、耳に届く弱々しい声。
唇を離して、声のした方を振り返ると、俺たちの姿を見て立ちすくんでいる、鈍臭くてトロくてパッとしない女がそこに居た。
小学生の頃から同じクラスになれば出席番号が必ず前後で、俺の後ろをちょこちょこついてきて、だけど出しゃばることはしなくて、大会で目立った応援はしてこないくせに、練習中は俺にずっと見とれてる。
俺の言葉一つで必死になってダイエットしたみたいだし、同じ高校に入るため頑張って勉強しすぎて三日くらい熱を出したと聞いた。
バカだと思う。いつかは俺が振り向いてくれると思っているんだろうか。バカだな。
中断されたことに苛立ったのか、彼女はムッとした。俺はそれを無視して、いつも彼女と分かれる道、何も言わず自分の家の方へ曲がる。
「え、ちょ、待ってよ桜司!もうバイバイ!?」
「疲れた。寝る」
「んもー!!」
そうしてあの女の家も俺の家と方向が同じなため、やっぱり俺の後ろを黙って歩きやがる。ふとその様子を見ると、落ち込んでいるのか何なのか、眉が下がっていて顔は俯いたまま。
通りすがる自転車にぶつかりそうになって、顔を上げて、また俯く。
何やってんだよ。鈍臭いやつ。
特にお互い喋ることはない。こいつが俺の隣を歩くこともない。高校から帰る道は、俺の家が先に着いて、あいつの家はその奥にある。
別れ際、透き通る、か細い声が生ぬるい風と共に流れた。

