一一一あれは高校三年生の、初夏にしては暑い、蝉が鳴き始めた頃だった。
「桜司ぃ。今度の大会でも絶対優勝するでしょ?そしたらお祝いにデートしない?」
付き合っている彼女が腕に絡まりついて、上目遣いで俺を見る。高校最後の夏のインターハイを控え、連日遅くまで部活をしている俺の事を待ち、ただ一緒に帰るだけの日々。
それだけでも満足なのだと、女は笑い、俺を待ち続ける。
弓道のルールはよく分からないから試合を見てても面白くないと言い、練習姿は見に来ないくせに、大会には我物顔で見に来る。
だけど俺はそのことに文句を言ったり気分が悪くなることはない。別に、どうでもいいから。この女が見に来ようが、見に来まいが、心底どうでもよかった。
「みんな騒いでるよー。桜司は弓道部の王子様だって!」
「ふーん。興味ないけど」
「もー。ちょっとはファンサとかしたらいいのに」
あ、だけどやっぱりダメ。私がヤキモチやくから。と付け加えて、彼女は腕をからませたまま、じっとオレを見つめた。
それはキスを待っている顔だ。溜め息を吐いてから、その唇に軽くキスを落とす。
「えー、これだけ?」と言う女がうるさいので、イラッとして俺はもう一度長めに唇を合わせた。

