私があまりにぼうっとしているものだから、彼はきょとんとしながら顔を覗き込む。
「何ぼーっとしてんの。悩み事?」
【今日、来て。】その言葉だけで私はどんな予定があっても彼を優先するし、逆にその言葉がないと私は一生この人に会えない。
この人は一生結婚をしないと決めていて、こうやって呼んだらすぐに来てくれる子があと5人はいる、はず。
本命を作らないことも、私を本命にしてくれないことも全部分かってるけど、それを理解していないと会ってくれない。
「誰かを好きになるって、どういうことなんだろうなって思って」
「ふ、哲学?」
哲学は専門外だ、と希は本当に興味がないんだろうけど、興味がなさそうに軽く笑って、手元の分厚い本に視線を戻した。
31歳、大学准教授。
希は結構、すごい人。
「その人を自分の元に縛り付けて誰の目にも触れさせないようにして、相手を強く求めることじゃない?」
なんて、難しそうな本を読んでいるのか、読んでいないのか。この話を広げるつもりなのか、早く終わってほしいと思っているのか。
大学の准教授のくせして適当そうに言う彼の傍によって、じっと見つめてみた。
「そんな狂気的な感情?」
「恋愛は狂気的なものだよ」
そんな恋愛したことないくせに。アホ。

