にべないオウジ



「人生初朝帰りなのに、桜司と二人きりじゃないんだ?そういうところが透子らしいけどねー」


目元は透子に似ているけど、他は全然似てない。昔、透子は依子さんの真似ばかりしたがっていたけど、ある時からしなくなった。

依子さんにはなれない。そう気付いたから。


「お母さんにはちゃんと言ってあるから大丈夫だよ。気楽に入りな」

「…ありがとう。お姉ちゃんは、朝からどこ行くの?」

「もう彼氏んとこ戻るよ。やっぱダメだね。実家は窮屈でしんどい。透子もよくあんな家で住んでるよね。私は絶対無理」


透子よりも友達が多くて、明るくて、要領が良くて、自由。我慢することが苦手で、思ったことを口に出して、だけどそれが許されるタイプ。

透子は何かを言いたげに一瞬口を開いたけど、その後の言葉が続くわけでもなくて、またぎゅっと口を閉じた。


「桜司もキリちゃんも、またね。透子のことよろしくね」

「依子さん、」


ノースリーブから伸びる細くて白い腕。右手の薬指に指輪をはめたその手をひらひらさせて、歩きだそうとする彼女を桜司の声が止めた。


「最近は、ちゃんと食べれてる?」

「……そんなこと、覚えてたんだ。大丈夫だよ。昔みたいに吐いたりしてないし」

「……そ。良かった」


その言葉に依子さんがくしゃりと笑って、指輪のついた右手で桜司の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。この男に、こんなふうに触れるのは、きっとこの人しかいないと思う。

その時、透子の顔が分かりやすく歪む。

驚いた。桜司に彼女が出来た時も、桜司が誰かとキスしているところを見たって言った時も、桜司に冷たいこと散々言われた時も、そんな顔したことなかったから。