それを慌てて桜司が手を伸ばした。
透子の頭がぶつからないように、頭に手のひらを添えてあげている。
しかしその瞬間、透子はすぐに目を見開け顔を真っ赤にして「触っちゃダメ!」と言いながら桜司との距離を取った。
桜司の意外と繊細なガラスの心臓が、パリーンと音を立てた気がした。
あーあ、何があったのか知らないけど、これは重症だな。
「と、透子、どうしたの…?今日起きてから様子が変だよ…。桜司に何かされた?言ってみな?」
もしほんとに桜司に寝込みを襲われていたのなら、その綺麗な顔面をボッコボコにしてやる。
透子は少し考えるように口を噤んで、目には涙を溜めて、焦れったく首を振った。何それかわいい。
「ご、ごめん。何でもない、の」
「じゃあなんで避けるんだよ」
「え」
桜司が無理矢理、透子の顎を掴んで、グイッと上に持ち上げた。あまりに強引で透子の首の骨が変になるんじゃないかって、ハラハラした。
「俺の目見て、言えんのか」
「え、あ、その、オ、オウくん、やめ、」
顔を逸らしたいのに、桜司に強く掴まれているせいで逸らせない。だから透子は顔を赤く染めてギュッと目を閉じている。
まるで今からキスするみたい。
「ちょっと、家の前でキスするの、やめてくれないー?ご近所迷惑」
そう思っていたら、私の気持ちを代弁するかのような声が、私たちに届いた。ご近所迷惑と言いながらそんなふうには思っていなさそうで、家から出てきた彼女はにやりと口角を上げている。

