「まさか透子の寝込み襲ってないよね?」

「……」

「心当たりあるの!?」

「……いや、違う。夢で、とこにキスされる夢を見た」

「は?どんだけ変態なの。怖いわ」

「うっせ」

「てかそもそも夢だとしても透子からキスするわけないでしょ」

「黙れカス」


女の子に向かって黙れカスって。とことんこの男は口が悪くて愛想がない。

だけどぶっきらぼうで他人の心なんてどうでもいいと思っているみたいに見えるけど、この男は知っている。

透子が自分に向ける感情は、恋とは少し違うこと。憧れとか、尊敬の気持ちでできていて、だからあの子は桜司と付き合いたいとか触りたいとかそういう欲がない。

そもそもこいつに憧れとか尊敬の気持ちを抱くところから、意味不明だけど。


透子の世界には桜司しかいなかった。だからそれが恋だと思い込んでいた。それを今、世界を広げようと、桜司以外の人も取り込もうとしている。


「とこが全然目を合わせてくれない…」

「元々自分から逸らしてたくせに」


こいつ、透子にほんとに彼氏とかできたら、どうするつもりなんだろ。監禁とかしかねないな。

……怖っ。私が身震いしたところで、透子の家のの立派な一軒屋に着いた。相変わらず今日も庭が広くて、私も昔あそこでBBQをさせてもらったことがある。

お母さんに会うのが緊張しているのだろうか。目を閉じてから、ふらりと体勢を崩して近くの塀にぶつかりそうになる。