溜め息を吐くと、「溜め息吐きたいのはこっちなんだよ!」と何故かキレられた。
いやどう考えてもこっちだろ。お前のしょうもない小学生レベルの恋愛に振り回される俺の身にもなれ!
「でも透子ちゃんって、あれだね。ずっと周りから守られて生きてきた箱入り娘って感じだったけど、意外と度胸あるんだねぇ」
「はあ?なんでお前がそんなこと知ってんの。あいつと何があった。吐け。早く。吐け」
桜司が俺の首を本気で縛りながら前後に振るので、本気で吐きそうになりながら言葉を吐く。
「桜司気付いてた?ちょっと前から弓道部の勧誘がなくなったの」
「……あぁ。最近は平和だなと思ってた」
「あれ、透子ちゃんだよ」
「は?」
「透子ちゃんが、あいつらに頭下げたの。弓道の話したらお前が苦しむからって。勧誘やめてくださいお願いしますって」
肩ぷるぷる震わせてさ。怖いなら言わなきゃいいのに。だけど桜司のこと考えたら勝手に体が動いちゃうんだろうな。
「……とこ」
こいつは、透子ちゃんのことを「とこ」と呼ぶ。滅多にその呼び方で呼ばないけど、そう呼ぶ時はいつだって瞳の色が変わる。
その瞳を見ていると、見ているこっちの心が温かくなるような、そんな色。

