それから彼女は、涙を流すことが多くなった。
 「私のどんなところが好きになの?」
 彼女が僕によくする質問だ。聞かれるまで考えもしなかったことだ。
 「うーん、全部かな」
 「もっと具体的に」
 僕は彼女の好きな気持ちを具体的に言語化したこと事がなかったから難しかった。
 「じゃあ、何で私と付き合ったの?」
 「そりゃあ、君のことが好きだから」
 「でも、好きと付き合いたいってイコールじゃないよね。例えば凄く好きな芸能人がいたとしても、その人のこと何も知らなかったら付き合いたいって思わないじゃない」
 「まぁ、確かに」
 「じゃあなんで私と付き合いたいって思ったの?」
 僕はその質問に対する答えを探すと同時に、彼女がなぜその質問をしたのかを考えていた。僕は誰かと付き合いたいと思ったとき、なぜそう思ったかなんて考えないし、まして相手がなぜ告白を承諾してくれたのか疑問に思えども相手に尋ねようと思ったことはない。なぜなら、その答えはとても明確で、相手のことが好きだから。その一言で片付くことだと思っていたから。
 「君ともっと話がしたいと思ったからかな。でも、多分この人のためなら生きていけるし、何でも頑張れるとは思ったよ」
 僕は言った後、少し重かったかなと後悔したが本心であることには間違いなかった。
 「本当?」
 彼女は少し冗談交じりにでも、その声のトーンは真剣だった。
 「これは本心」
 僕は彼女の目をまっすぐ見て言った。少しの沈黙の後、彼女の目からスーッと涙が流れた。
 「え、待って。僕何か変なこと言った?」
 「ううん。たまにこういうことあるんだ私。自分でも分からないんだけど急に涙が流れることが。気にしないで」
 戸惑う僕に彼女はそう言った。カバンから出したハンカチで涙を拭う彼女を見ながら、僕の中にあった違和感が徐々に大きくなっていくのを感じていた。