初恋は報われないというけれど、

「行こう、ハルミちゃん。保健室で早く頬を冷やしてもらった方がいい」

「ありがとう、甲斐谷くん……」



ハルミちゃんに寄り添うように、甲斐谷はここから立ち去っていく。


私のことなどもう一瞥もしない。



取り残された私は、ひとりぼっちで。


よかった、お腹痛いのどっか行ったみたい。


代わりに、心臓のあたりがずっとずっと痛いけど。




「マユ」

「…………アツコぉ」



甲斐谷たちが去っていったのと入れ替わりに、アツコが何もかも見透かしたような瞳で私の前に現れた。



「なんで甲斐谷に言わなかったの?ハルミちゃんが最低な女だってこと」

「なんでそれ知って……」

「あんたのトイレ待ちしてたら、全部聞こえちゃったのよ。恋愛絡みのことに口出ししたくなくて出ていかなかったけど」



アツコは飄々とした顔でスマホの録音を流した。



「証拠はあるよ?甲斐谷に見せようか?」



リピートされた天使の言葉は、何度聞いても同じくらい悲しい言葉で。


これを聞いたら甲斐谷は、きっとすごくショックを受けると思うから。



「いいの。甲斐谷、それ知ったらきっと泣いちゃうよ」

「……………泣いてるのは、マユじゃない」




「ぅ……どうしよう。甲斐谷に嫌われちゃった……。私は甲斐谷のこと好きなのにぃ……」


「全部バラせばいいのよ」

「そんなことできないよぉ……」




だって私は、甲斐谷が傷つく姿を見たくない。




頬を伝う涙を、どうやって止めればいいのか。


わからないけど、もういいんだ。



甲斐谷はここに戻ってこない。


私の涙なんて彼は知りもしないのだから。